アートと旅

篠田桃紅「雙」 アート
篠田桃紅「雙」2005年

はじめまして。アートと旅を愛するmicaです。
せわしなく暮れていく日々を、少しでも心地よく過ごせるように。
新鮮で、濃密なものとして引き留めておけるように、このブログをつづります。

唐突ですが、アートと旅は似ていると思います。
まず「アートとは何か」ですが、一言で表すのは難しいですよね。
「表現された何か」「混沌に形を与えたもの」「知覚で共有でき、感性で判断されるもの」
まだまだ、色んな意見があるでしょう。

私にとってアートは「自由になるためのもの」。
すべての物事には言葉が貼りつき、説明済みの古びた世界。
何が起きても、原因と結果さえわかれば処理済み事項。
いつも「正しいかどうか」の戦い。
そんな日常から離れ、アートと対峙したとき、私は自由を感じます。
作者は、私たちに知覚できるものとして、何かしらの動機から、作品を生み出し提示します。
それは私たちにとって、初めて出会う「名付けられていないもの」。
鑑賞者は自分の中から様々な言葉を引き出し、当てはめ、作品と自分を結び付けようと試みます。
正しさの判断を外部にゆだねられないし、うまくいくかわからなくてちょっと苦しい。
でも、この身一つで作品と向き合う感じが、私は自由そのものだと思うのです。


もちろん作品の理解には、作者の意図や、時代・地域についての知識などが欠かせません。
これらは、因果関係で説明できるし、「正しさ」が担保されています。
でも、それだけで「理解した」と片付けてしまうのはもったいない。
自分が対峙したものを、自分の言葉によって受け入れる過程を経ることで、それは「私にとってのアート」になるのですから。

初めてのものごとを受け入れる。
「知らなかったこと」があったことに気づく。
新たな世界に、自分の輪郭をたどる。

さて、これらは私が旅先でいつも感じていることに通じます。
いつもの生活を中断し、見知らぬ土地へ行き、そこでの生活に紛れ込んでみます。
はじめは自分の周りに境界を感じます。
光や空気、街のにおいなどを一つづつ名付け、確かめ、自分になじませていく。
そうすることで、初めに感じた境界は和らぎ、少しづつ私の街になっていくのです。

アートと旅は、私に自分の輪郭を描き替えるきっかけを与えてくれます。
いつも新鮮な世界に暮らせるように、アートに出会い、旅に出たいと思います。

篠田桃紅「雙」

篠田桃紅「雙」 リトグラフ 2005年

2021年に107歳で亡くなられた篠田桃紅さん。
水墨の抽象=「墨象」と言われる、独自の表現を追求しました。
「雙」のタイトル通り、墨による、沈み込むような闇と、みずみずしく繊細な表情が対比されています。右の赤い線は光を、左の黒い線は「旅」の象形文字だそうです。
(作者は、本来作品にタイトルは必要なく、自由に見てほしいと言っていたそうですが。)

ほぼ独学で書を極め、抽象表現へと展開させ、アメリカをはじめ世界で活躍した作者。残されたたくさんのエッセイからは、自由でしなやかな精神と、強い信念、己に対する責任感がうかがえます。
たびたび登場する「旅」のモチーフは、作家人生そのものだったのかもしれません。

毎日眺めては、未知のものに出会う勇気をもらっています。

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